死ぬ、という言葉に土蜘蛛に襲われた日のことを思い出した。あの時感じた"死"への恐怖は今でも鮮明に覚えている。思い出すだけでも手足が震える。
五ヶ月後に死ぬ。五ヶ月後には隆永さんとも、お父さんとも、常連さんたちや真言さんや仲良くなった巫女助勤の女の子たちとも会えなくなる。
赤ちゃんの顔を見ずに、成長を見ずに、産声も小さな手もふわふわの髪も何も知らないまま、この腕に我が子を抱き抱えることもないまま死ぬ。
そんなの、怖くてたまらないに決まっている。
死ぬのは怖い、でも、お腹の子を自らの意思で殺して私は生きていけるのだろうか。
一番大事なんだって、隆永さんがそう思うように私だってそう思ってる。
でも私のお腹の中にいるのは"一番大事な人との赤ちゃん"。私のお腹に宿ってくれたその瞬間から、赤ちゃんも私にとっては"一番大事な人"になってしまったんだ。
でも一番大事な人と自分を天秤にかけた時、間違いなく傾く方は"一番大事な人"なんだ。
隆永さんと同じなんだ。私も、一番大事な人を失ってまで、生きていくことなんて出来ない。
「私は、絶対に産む」
「幸ッ!」
「帰って。だって隆永さん、私が寝ている間にこの子達のこと、殺そうとするよね……?」