犠牲、という言葉に心臓が波打つ。

あえて隆永はその言葉を選んだのだと思った。



「社に帰って双子を身篭ったなんて言えば、きっと産む以外の選択肢は与えられないんだ。つまりそれはあと五ヶ月もしたら、幸が死ぬということなんだよ」



唇をきつく結んで膝を見つめる。ダンッ!と机を叩く音が響いて身を縮めた。



「俺は……ッ! 幸を犠牲にして子供を産ませるために、幸と結婚したんじゃない!」



怒りに震えているはずなのにまるで泣いているような叫びだった。

黙ったまま手をきつく握りしめる。


「私たちの子供でしょ? 分かってるよ、んな事分かってるよ! 俺が喜んで自分の子供を手にかけるとでも思うのか!?」


歯を食いしばっていないと何もかも堪えられなくなりそうだった。


「でもそうしないと幸が死ぬんだよッ! でも今ならまだ間に合う、双子の事は誰にも伝えていないから。誰も知られなければ、幸は流産した事になるだけなんだ。そうすれば何もかも丸く収まるからッ!」


大粒の涙がテーブルの上に落ちた。隆永の瞳から溢れたものだった。



「俺は、幸が一番大事なんだよ」



どうして、それを今言うの。そんなの、ずるいよ。