でも、と言いかけて続きは出てこなかった。
「一人目の子が生まれた後、どうなる」
幸の代わりに清志が静かにそう尋ねた。
「一人目の子が必ず言祝ぎを持って生まれるんです。だから、一人目の子が生まれたその瞬間、幸は腹の中に呪いを持っている状態になります。その状態で助かった妊婦は────いません」
清志の瞳が揺れた。幸の手を包み込むように握っていた手の力が揺らぐ。
「それは、死ぬということか」
「……はい。妊婦が神職や巫女なら力を抑え込む祝詞を奏上する事でなんとか二人目を産むことは出来ますが、それでもひと月足らずで亡くなります」
清志が勢いよく振り向いた。その視線から逃れるように幸は俯く。
言葉には出さないが視線が訴えている。
子供を産んで成長を見届けられずに死んだ幸の母親を、自分の妻を一番そばで見てきた。清志が一番その辛さを知っているからだ。
「……出会った時に言ったでしょ、実家の鳥居くぐれば法律なんて通用しないって」
そういえばまだ隆永のことを警戒していた頃に、そんな冗談を聞いた気がした。
「冗談なんかじゃないよ。母親が死ぬと分かってて、皆双子を産ませるんだ。どうしてか分かる?」
隆永は自嘲の笑みを浮かべた。
「生まれつき言祝ぎが強いということは、間違いなく優秀な神職になる。言祝ぎの力だけを持って生まれてくる子供が欲しいからだよ。母親が犠牲になろうとも」