22時を過ぎた頃、幸はひとつ欠伸をして目を擦った。


「幸、疲れてるなら部屋で寝ろ」

「ん……でも隆永さん来るし」

「来たら起こしてやるから」



そうしようかな、とテーブルの上に置いていた携帯電話を開ける。

社から実家まで車で二時間ほどの距離。あの後直ぐに出発していたならもう着いていてもおかしくない時間だ。

運転中は通話できないだろうと思って、何時頃に着く?というメールだけ送信した。まだ返事は返ってきていない。


部屋で寝てるけど、着いたら起こしてね。そう書いたメールをもう一通送って清志に断りを入れて自分の部屋に向かった。



幸の部屋は結婚する前のままの状態にしてあった。けれどちゃんと掃除されていてベッドのカバーも新しいものにされている。

お父さん、ちゃんと掃除してくれてるんだ。



干したての匂いがする布団にゆっくりと倒れ込み深く息を吸った。


懐かしい柔軟剤の匂いと、出ていくまでは気が付かなかった実家の匂いを胸いっぱいに吸い込んで静かに目を閉じた。