「……なんだこれ」
店仕舞いをしたあと、二階の自宅へ戻ってきた清志はテーブルの上に並べられた色とりどりのお守りを見て怪訝な顔をした。
台所で夕飯の支度をしていた幸は「あ、それね」と声を上げる。
「常連さんたちからもらったの。みんなして同じこと考えてるんだよ、ほんとにねぇ」
そう言って肩をすくめる。
気休めだけどこれ貰って、と渡されたのは色んな神社の"安産祈願"のお守りだった。その中に詰まったたくさんの想いがとても嬉しかった。
急に無言になった清志を不思議に思った幸が台所から顔をのぞかせた。
「お父さん?」
「……あ、いや」
不自然に慌てて何かをポケットに隠したのが見えた。
「今なに隠したの」
「なんでもない」
「ウソ。見せて」
苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて、清志はぶつぶつと何かを零しながらポケットの中のものを机の上に置いた。
色褪せ意図がほつれたピンク色のお守りだ。
年季の入ったそれに首をかしげながら手に取った。
「母さんが、お前を産んだ時に握ってたやつだ」
その言葉に目を丸くする。
「お母さんの……」
「ああ」
幸に母親の記憶はほとんどない。元々体の弱い人だったけれど、自分を産んだ後体力が戻らずにその二年後に亡くなったと聞いている。