「────お父さん? ただいま〜」
店の方の入口から入れば、入った瞬間にわっと歓声が上がる。
「さっちゃんおかえり!」「お腹目立ってきたねー!」「やだもう幸せそうな顔しちゃって!」
昔から可愛がってくれた常連客の皆が自分の周りを取り囲む。
幸は驚いて目を瞬かせた。
「わっ、皆どうしたの? 今日町内会か何かあったっけ?」
「何言ってるのよ! さっちゃんが帰ってくるって清志さんから聞いて、会いに来たのよ!」
ばしばしと背中を叩かれて、「嬉しい!」と顔をほころばせた。
清志が厨房から出てきた。「おう、おかえり」といつものように片手を上げて素っ気なく声をかけてくる。
「清志さん嬉しいのに喜んでる姿見せたくないから、素っ気なくしてるのよ」
耳元でこそりとそう教えられて小さく吹き出した。
「それにしてもあの隆ちゃんとね〜」
「あんなにいい男に言い寄られたら、私でもコロッといっちゃうわよ!」
「誰があんたに言い寄るのよ!」
賑やかな常連客によって店の中に笑い声が溢れる。
なんだかほっと肩の力が抜けた。新生活は大変だったし、慣れないことも多かった。隆永がそばに居てくれるとはいえ、気の抜けない日々が続いていた。