ブーッブーッとマナーモードにしていた携帯がなって、ぱかりと開ける。
画面には【扇屋 真言禰宜頭《ねぎがしら》】の文字があり、げっと顔をしかめる。
見なかったことにして着信を取り消すと、また鬼のように電話がかかってくる。隆永は仕方なく通話ボタンを押した。
『隆永権宮司! 今どちらですか!?』
「──っ、そんなに叫ばなくても聞こえてるっての」
『私の質問に答えてください! 今どちらですか!?』
「えっとー、あきる野市」
『はぁ!? なんでそんな所にいるんですか!?』
教えてもらった蕎麦屋は全滅だったので、とりあえず営業している飯屋を探すことにした。
電話先でギャンギャンと騒ぐ真言に小指で耳を塞ぎながら隆永は歩き出す。
『あ、もしかして帳簿のいちばん新しい欄に書いてある依頼に行ったんですか!?』
「そうそう。帳簿付けないと巫女頭が怒るから、今回はちゃんと書いたはずだけど?」
『誰が担当したのか名前が抜けてたら、意味無いでしょう!? というか何ですか"怪虫駆除"って。貴方がわざわざ行く案件ではありません! 聞いてます!?』
いつもの説教が始まって、「はいはい、聞いてます聞いてます」と聞き流しながら一軒の小さな店の前まで来た。
暖簾と手入れされた看板が出ている、ということはここはまだ営業中らしい。
古めかしい二階建ての木造建築に瓦屋根、磨りガラスの扉の向こうから甘い餡子の匂いが漂ってくる。