季節はめぐり、初夏の風が社の御神木の葉を揺らす季節になった。
膨みはじめた腹に手を当てて縁側でのんびりと微睡んでいた幸は、こちらに近付いてくる足跡に気が付き目を覚ます。
す、と障子が開いて現れたのは隆永だった。
「またそんなところで寝て……せめて何か腹にかけないと」
「大丈夫よ、ちょっと暑いくらいだもん」
欠伸をひとつこぼしてそう返事する。
隆永は椅子にかけてあるブランケットを取ると、幸の膝にかけて隣に腰を下ろした。
幸の隣にあった本を手に取る。
「神職の心得? 懐かしいな。神修の学生だった頃に使ってた教科書だよこれ。どうしたの?」
「真言さんに頼んで用意してもらったの。この子に色々と教えてあげられるように、今のうちに私も勉強しておきたいって」
開けてみると付箋やマーカーでびっしりと書き込まれていた。
「でも言霊の力があるって分かってる訳でもないのに」
「言霊の力がなくても神職になりたいって言うかもしれないでしょ? 反対に言霊の力があってもサッカー選手やお花屋さんになりたいって言うかも。うちの和菓子屋を継ぎたいとか」
隆永から本を受け取り表紙を撫でて「ふふ」と笑った。
「この子がどんな道を望んだとしても、応援してあげられるお母さんでいたいの」
「……そっか」
どちらからともなく手を繋いだ。
相変わらず隆永の手は触れていると心が落ち着く。