いつもならツッコミを入れる真言が黙っているのを二人は不思議に思い首を傾げた。
少し失礼します、と静かに部屋から出ていった真言は時間を空けずに別の神職を連れてくる。来年で定年退職を予定している女性の禰宜だ。
「宮司、少し幸さまと二人きりにして頂けますか? 私が診察しますので」
有無を言わさない笑みで隆永と真言をつまみ出した。
「どうして禰宜が診察するんだ? お前がもう診たんだろう?」
「ええ。ですが念の為。そう不安がらなくても良いかと思いますよ」
どこか楽しげにそう言った真言は「お勤めに戻ります」と戻っていく。どこか浮かれた足取りに余計に困惑した。
十分も経たずに部屋の障子が開いて、同じくにこにこした禰宜が頭を下げて出ていく。
布団の上に座る幸に歩み寄った。
「幸……? どうだった?」
恐る恐る肩に触れると、呆然としていた幸が顔を上げた。
大きな目をいつも以上に丸くして隆永を見上げる。次の瞬間、瞳に涙の膜が張って、大粒の涙がぽろぽろと零れた。
「幸!? どうした、何か言われた?」
これまでに見た事がないほど狼狽える隆永に、幸は涙を拭いながらくすくすと笑う。
小さく首を振って目を合わせた。