「今日、実家帰る予定だったのに……」
「仕方ないよ。お義父さんも幸の体の方が大事だって言うよ、きっと」
「でも隆永さん、せっかくの休みだったのに」
「看病がゆっくりできて光栄です、お姫さま」
幸の汗ばんだ額にかかった前髪を払いのけて、おどけたようにそう言った隆永に幸は小さく笑った。
「薬は?」
「真言さんが、熱冷ましの薬煎じてくれてる」
「そっか。飯は食えそう?」
幸は小さく首を振る。
その時、障子の外から「失礼します、真言です」と声がかかり、さちの代わりに隆永が答える。
湯のみと粉薬を盆に乗せた真言が中へ入って来た。
「宮司もいらっしゃったんですね。幸さん、お薬お持ちしましたよ」
「ありがとう、ございます」
隆永に支えられて、幸は体を起こした。
「食欲はいかがですか? 今朝から何も召し上がっていませんよね。何か胃に入れないと」
「でも、今ちょっとご飯の匂いがダメで……」
青い顔で笑う幸に、隆永は眉間に皺を寄せる。
「幸、果物なら食べれる?」
「ん……ならミカン食べたい。すっぱいやつ」
「分かった。……真言、全国からすっぱいミカン取り寄せて」
大真面目にそう言った隆永に、幸が「馬鹿」と肩を竦める。