幸と隆永が出会って、三度目の冬が来た。
隆永が気にしていた神々廻家での新婚生活は、思った以上に幸が上手くやっているようで、彼女のお陰で古臭いその場所に新しい風が吹くようになった。
幸が和式トイレを全て洋式にすることを実現させた事でわくたかむの社の巫女たちの心を掌握できたのだと、自慢げに鼻を鳴らしていた。
これまでに何度か喧嘩して幸が実家に帰る場面があったけれど、真言が間を取り持って何とか離婚の危機は回避している。
隆永は今年の春で社の宮司になった。毎日忙しそうにしているけれど、神職たちの目を盗んでは幸とのんびり過ごしている。
賑やかで穏やかな日々が続いていた。
「幸? 入るよ」
「はーい……」
すっと障子が開いて隆永が顔をのぞかせる。
体を起こそうとしたが止められて、大人しく布団の中に潜り直した。
「気分どう?」
「ん……まだ熱っぽい」
幸の火照った頬を摩り、心配そうな顔を浮かべる。冷たいその手が心地よく、幸は目を細めた。
社が一年で一番忙しい正月がすぎてひと月ほど経った頃に、幸が体調を崩した。
結婚してやっと一年、慣れない環境での生活と最近の忙しさが祟ったのだろうと思った。