結婚を承諾した日に、隆永の家の特殊性については聞かされた。実際に妖に襲われた幸はすんなりとまでは行かないけれど、あらかたは理解したつもりだ。

隆永や真言らが持っている"言霊の力"というものは遺伝するものでは無いけれど、両親がともに保有していれば九割は子供に引き継がれるらしい。

もちろん幸はこれまでそんなものとは無縁の世界で生きてきた。幽霊ですら見たことがない。例の土蜘蛛が見えたのは、土蜘蛛自体の妖力(ちから)がとても強かったかららしい。


サラブレッドの隆永と一般家系の幸の婚姻に反対意見が多数あったのは、そういう理由も含まれているらしい。

隆永は何も教えてくれなかったが、歓迎されていないことは何となく察しているし仕方の無いことだと分かっている。


仕方の無いことだと分かってはいるけれど、だからと言って嫁姑や家のものたちに好き勝手言われて虐げられるつもりもない。



「それに嫌になったら実家に帰るし」

「……本気?」

「ふふふ」


隆永はやれやれと肩を竦めて幸の腰に手を回した。



「頼もしくて助かるよ。よろしくね、奥さん」

「こちらこそよろしくね、旦那さん」




二人は寄り添いあって歩き出す。

桜吹雪のように雪が舞った、出会って二度目の冬だった。