「それに隆永さん、さっきから"家のものを"とか"頼んどく"とか。その間隆永さんは、そばに居てくれないの?」

「でも、俺といるとまたあんな事が」

「私さっきね。怖くて怖くて"あーもう死ぬだ"って思った時、隆永さんの声が聞こえて心の底から安心したの。大丈夫だって思ったの」



いつもは自分の手を掴んでくるばかりだった骨ばった大きな手を、今度は自分から掴んだ。

温かい。心地よい。

安心する大きな手だ。



「ずっと鬱陶しいって思ってた声が、聞こえないとすごく寂しくて不安になるんだって気付いた。隆永さんの声が、私に届くところにいて欲しい」



隆永は椅子に座るさちの前に膝を着いた。目線が合う。

いつもは飄々としているくせに今にも泣きそうなほど目は真っ赤だった。



「……そんなに近くにいても、いいの?」

「いてほしくなっちゃったみたい」



肩を竦めて笑えば、力強く抱き寄せられた。その広い肩に幸は頭を寄せた。



「俺の声が届く所に、いつまでもいてくれますか」

「……はい」



思えば初めて出会った日のプロポーズをされたその瞬間、隆永の声が心地よくて引っぱたくのがワンテンポ遅れたんだと思い出した。