「えっと……何の謝罪?」

「幸さんを危険な目に合わせた。そうならないようにするための、この力なのに」


隆永は自分の手のひらを見つめて力なく笑う。

薄々気付いてはいたけれど、やはりそうなのか。隆永には自分とは異なる、特別な力がある人らしい。


「あれは何だったの……?」

「土蜘蛛って呼ばれる妖だ。最近ずっと追いかけていて、やっと巣のありかを見つけたところだったんだ。今晩に修祓するはずが、こんなことになって……」



妖、と反復する。


「お義父さ────親方さんには俺から事情を話すよ。暫くはうちのものを定期的に見回りさせる。あと、今幸さんには"残穢"っていう悪い物がついてるから、後日それを清めるお祓いも出来るように頼んでおく。それから……」


目が合わない。

あれほど私の顔を覗き込んではにたにたと笑っていたはずの隆永が一度も自分を見てくれない。

どこか気まずそうに、床に視線を向けるばかりだった。


何よりも一番気になったのは────。



「名前、もう呼んでくれないの?」



え?と困惑した顔の隆永がやっと顔を上げて目が合った。

目が会った瞬間、やっぱりあの時感じたように心の中にはふわりと心地よい安心感が広がって肩の力が抜ける。


幸は隆永を見上げて笑った。


「さっき、"幸"って呼んだのに。もう幸さんになってる」

「あれは咄嗟にというか」

「嬉しかったのに」



隆永は目を見開いて自分を見つめた。