化け物は激しくその場で足踏みをした。暴れているようだ。こんな化け物にも痛覚はあるらしい。
その様子では下から這い出る事は出来そうになくて、強く目を閉じだその時。
「神火清明 神水清明 祓い給え 清め給え────!」
寒い冬の日に外に出て、一番に吸い込む空気のようにその声澄んでいた。
一瞬背中が熱くなって、自分達に覆いかぶさっていた気配が弾け飛ぶ。
顔を上げるよりも先に自分の体がふわりと浮いて、心地よい温もりに包み込まれる。
「幸……!!」
耳に馴染む声が焦ったように自分の名前を呼んだ。
ずっとうるさいと思っていたのに、いざ居なくなるととても寂しいのだと今実感した。そしてその声が、自分にどれだけ安心感をもたらしてくれる声になっていたのかが分かった。
「隆永さん……っ!」
焦りと怒りと安堵と、色んな表情を混ぜた顔をしている。その顔を見ると涙が滲んで、まだ恋人でもないのになんて考えは吹き飛び、ただその首に手を回して抱きついた。
そうしているだけで、もう大丈夫な気がした。
「全員で囲め! 絶対に逃がすな!」
普段は聞けないような気の張りつめた声で彼はそう叫んだ。
どうやら他にも応援が来ているらしい。
「大丈夫、俺が守る」
耳元でそう囁いた声はまるで子守唄のように優しく温かかった。