「イヤッ! お願い助けてッ! 助けて!!」



彼女の叫びが響き渡る。

カチカチカチカチ、化け物の歯ぎしりが近付いた。


今この瞬間に決めなければ死ぬかもしれない、いや死ぬ。考えが決まるのと動き出したのはほぼ同時だった。

咄嗟にたまたま作務衣のポケットに差したままにしていたボールペンを右手に掴んで振り上げた。



私が向かって行くよりも先に、化け物が足首の糸を引き寄せる。

激しく体をうちつけて転んだが、痛みに顔をしかめる前に体勢を起こした。


体勢を起こした瞬間、化け物の間合いに入った。グワッと開いた口の奥に深緑色の唾液と谷の底のような暗闇が広がる喉の奥が見えた。

圧倒的な「死」の気配に痙攣でもしているかのように手が震えた。


できる限りの力を込めてボールペンを握りしめた。



「うわぁああッ!」



化け物の目に向かってそれを振り下ろした。

ズレることなく眼球のど真ん中に突き刺れば、金属を擦り合わせるような悲鳴を化け物が発した。



化け物の足元に蹲る彼女を守るように咄嗟に覆いかぶさった。