「あの……大丈夫ですか?」
「へ……?」
思ってもみなかった声にパッと顔を上げた。
セーラー服を着た女の子だった。寒そうにマフラーに顔を埋めて、赤い鼻をスンとすする。片手には英単語帳を持っていて、塾からの帰り道のように見えた。
「わ、大変。足怪我してます!」
「え……あ」
幸の血だらけの膝を見て血相を変えたその子は慌てて自分のスクールバッグを探り出す。
「バンソーコーあったかな」
「あ、ごめんね。大丈夫、ありがとう」
「いえいえ! 丁度この前友達にあげたから、まだ余ってる────」
その瞬間、目の前から少女が消えた。消えたというか、暗闇に引きずり込まれていったのだ。引き込まれる瞬間に、彼女の腰に透明のあの糸が巻きついたのがはっきりと見えた。
あまりにも一瞬のことに言葉を失う。
きゃあああ、と夜の闇を貫く悲鳴が響き渡った。
ガサガサ、と何かが動く音がして、ソレは街灯の白い光に映し出された。
自分の背丈ほどはあるコオロギの足のようなものが六本見えた。その真ん中には黒と黄色の縞模様の胴体があって、身体中を短い毛で覆われている。
顔の作りはなにかの動物のようで、ギョロりとした大きな光る目が体の真ん中から自分をじっと見ている。カチカチと音を立てる口には八本の鋭い牙が見えた。