芽が小瓶を突き出した。
咄嗟に嬉々の手を引いて背に庇う。
「そんなに警戒しないでよ。嬉々や薫には危害を加えたりしないから。俺は本庁の奴らを殲滅したいだけなんだ」
「お前が本気でそうするつもりなら、俺も本気で止める!」
「やめてよ。言ったでしょ? 俺は二人と戦う気は無いんだって」
薫が背を向けて歩き出す。
その先は本庁がある。
嫌だ、嫌だ嫌だ。こんな受け入れたくない、信じたくない。頼むよ芽、振り向いて。行くな、戻ってきて。
心が痛いほどに叫ぶ。
止めないと、今止めないともう一生手が届かなくなる気がする。
「────ッ、天地の真清水の産霊に化生座せる水産霊弥都波能売神の幸魂感け通わせ守り給え幸え給え 今も賜る天津水を天之真名井の真清水と受けしめ給え 此の水はただ水ならで天にますとよわか姫よ宮のみ水ぞ 此の水はただの水ならで天にますみおやの神のみめぐみの水 盛るときは形にまかせて善悪をうつすは生きた水のかがみ!」
縛れ、と心の中で強く念じて祝詞を叫ぶ。
次の瞬間芽の体が縄で縛られたように硬直し前のめりに砂利の上へ倒れ込む。
「……っ、凄いなぁ薫。こんな事も出来るんだ」
転がってこちらに向き直った芽が、感心したようにそう言った。