そしてこの場所から、二人が存在したという事実が消されていく。

なのに、ベンチに嬉々と並んで座った時に嬉々が無意識に二人分の間を開けて座ったり、部屋から二人に借りていたものが出てきたり、まだ確実に自分たちの中には二人がいて、ここにいないことが不思議で、どうしようも無い気持ちになった。



ブブ、とポケットに入れていたスマートフォンが震えた。

空亡戦の後学生にも少しだけ報奨金が出て、それで自分で買ったものだ。使い方はまだいまいち分かっていないので、メールと電話しか使ってない。



画面には「玉富嬉々」の文字が映し出されていた。嬉々からの電話だった。

応答のマークを叩いた。



「もしもし嬉々? 部活中じゃなかったの」

「────わ、本当に薫がケータイ持ってる」




鼓膜を震わした耳馴染みのある声に、思考回路が追いつかず固まった。




「話したいから出てこれる? いつもの場所(・・・・・・)で待ってるよ、薫」




ツ、と通話が切れて、呆然と耳から端末を離した。

画面は真っ暗になる。



────まさか、いやでも、あの声は間違いなく。



なりふり構わず駆け出した。