することがないので真っ直ぐ寮へ帰った。
ほとんどの学生が部活に所属しているので、学校が終わってすぐのこの時間帯は寮がまだとても静かだ。
帰ってきたものの真っ直ぐ部屋に帰る気にはなれなくてぶらぶらと寮内を歩き回る。
靴箱、自分の両隣にはスリッパもローファーもない。洗面所、自分の両隣にはコップも歯ブラシもない。
そして自分の両隣にも、誰もいない。半年前までは当たり前のようにそこにいたはずなのに今はとても、とても静かだ。
宙一の部屋は担任へ挨拶しに来た母親が一緒に荷物も引き上げて行った。担任に言われて片付けを手伝った時に「アースウォーメン」全シリーズのDVDを貰った。
泣きながら荷物を片付ける母親を不思議そうに見上げている小さな子供は宙一によく似た顔立ちの少年だった。
芽の部屋は全ての荷物が差し押さえになった。どかどかと部屋に土足で入った本庁の役員たちが次々とダンボールに芽の荷物を放り込んでいくのを、外から嬉々と見ていた。
荷物は全部持っていかれたかと思っていたけれど、次の日に担任から芽の紫袴を渡された。大和舞の授業を選択していた芽は、更衣室にひとつ予備を置いていたらしい。それだけ回収し損ねたようだ。
本来なら役員へ渡さなければいけないはずなのに「好きにしろ」と自分に渡してきた所は、やっぱり斎賀先生に似ているなと思った。