「言祝ぎしかない体の中に呪が少しずつ積み重なって、耐えられなくなったんだと思う」



でもだとしたら、芽の心が壊れるほど呪が積み重なるような何かが起きたということだ。

自分は芽のことを何も知らない。だからそれが何なのか、何一つ検討もつかなかった。


なぜそうなる前に気付いてやれなかったんだ。思えば芽の様子がおかしかったのは、感じ取っていたはずなのに。

なぜ芽は自分たちに何も話してくれなかったんだ。俺たちは毎日一緒にいた。"困ってたら助ける、遅れてたら待つ、疲れてたら肩を貸す。それがクラスメイトなんだよ"。そう言ったのは芽だろ。


俺とお前は、嬉々は、宙一は。親友だったはずだろ。


目頭が熱いのに涙は溢れなかった。溢れてくるのは怒りと戸惑いと困惑と、何も出来なかった自分への強い後悔の念だった。


雪が降り始めて自分たちは寮へ帰った。久しぶりの学生寮は変わらず埃っぽい匂いがした。




夜が明けて朝が来て、ひとりまたひとりとまねきの社の神職や動員された学生たちが帰ってくる。

鳥居の下で嬉々と共に宙一を待った。何人もが鳥居をくぐって帰ってくるのに、一向に宙一の姿が見えない。


宙一が死んだことを知ったのは、日が暮れた頃だった。