あの時猫を殺したのは、間違いなく芽だった。
そして芽は、"僕が殺したの?"という問いかけに否定も肯定もしなかった。だから自分はそれを肯定として受け取った。
芽の中に呪はあった。間違いなく存在していた。
一度禄輪に聞いたことがある。自分は本当に一生言祝ぎを培うことは出来ないのか、と。禄輪はその時「そんなことは無いぞ」と答えた。
普通の人なら50あるものを減らしたり増やしたりするだけでいいが、自分の場合は0を1にしなければならない。
生まれつき備わっていない言祝ぎと呪をゼロから生み出すことは"ほぼ"不可能、不可能では無いのだと。
ただそれは言祝ぎと呪が激しく高まる程の何かが起きない限り、何をしても意味は無い。偶然を待つしかないのだと。
だからもしかしたら、芽は幼少期になにかの影響で呪が芽生えていたのかもしれない。
禄輪は最後に、自分に向き合ってこう言った。
"ただな、薫は言祝ぎがない今の状態で生まれた。心も体も、その状態で均衡を保っている。だから言祝ぎが宿ったその時、もしかしたらそのバランスが崩れてしまうかもしれない"
その言葉が正しいのなら芽は。