外に出ると月が昇っていて、自分よりも先に解放されたのか嬉々が本殿の前に立っていた。

目が合った。会話はない。

並んで歩き出して、たどり着いたのは皆でよくたむろしていた庭園の反橋の下だった。


砂利を足でならして座った。



「あいつら阿呆なのか」



嬉々が先に口を開いた。



「今回の件とアイツが普段読んでる小説の題名と何が関係するんだ」

「ああ……それ俺も聞かれた。一緒に観た映画のタイトル。マジで意味わかんない質問だった」



とにかく疲れた。

膝の間に顔を伏せて肺の空気を全てはき出す。



「質問されながらさ、俺……あんまり答えられなかったんだ」



好きな食べ物、普段読んでる本、休みの日は何してて、普段よく行く場所ばどこか、嫌いなことは何か。

何でも知ってるようで、自分は芽のことを何も知らなかった。



「芽が何考えてんのか、何一つわかんないよ。でもさ」



目尻が熱くなる。



「芽がやったって聞かされた時、俺すぐに否定できなかったんだ。"芽がこんなことする訳が無い"って」


昔、まだ自分も薫もわくたかむの社にいた頃に、離れで子猫が死んでいたことがあった。

その時の自分は呪が不安定で、その子猫が死んだのは自分のせいなんだと思った。


でも違った。そうじゃなかった。

庭の砂利の上で横たわる子猫の額には大きな傷跡があって、そばに立っていた芽の二の腕には引っかき傷があった。

その足元には芽の手のひらと同じ大きさくらいの、血がついた石がころがっていた。