車の中で会話はなかった。到着するや否や飛び降りてまねきの社の階段を駆け上がる。

景色が開けて社頭に降り立ったその瞬間、目の前に広がる光景に言葉を失った。


えぐれて土が盛り上がった石畳の参道、御神木の幹には鋭い傷跡があって、半壊状態の本庁の官舎。

一体、何が起きた?



嬉々と無言で目を合わせて本庁の官舎へ駆け込んだ。いつも小綺麗なそこが瓦礫の山になっている。



「なに、これ」



呆然とその場に立ち尽くす。

後ろから肩を掴まれた。



「薫」



名前を呼ばれて振り返る。



玉嘉(たまよし)さま……」



包帯が巻かれた右腕を肩から吊るしたその人は、日本神社本庁の頭、津々楽(つづら)玉嘉(たまよし)だった。



「これは、」



玉嘉が険しい表情で小さく頷く。



「本当に……本当に芽がやったんですか!?」



堪らずその胸に掴みかかれば、避けることなく玉嘉はされるがままにそれを受け入れる。



「間違いない。神々廻芽本人が本庁官舎を襲撃して、上層部の神職数名を殺害している。その後、わくたかむの社を襲撃して行方をくらませた」



まるで無音の白黒映画を見ているみたいだ。

他人事では無いはずなのに、他人事のような感覚に陥る。


それほど信じ難い事だった。