「かなり厳しい状況だったんだな」

「うん。でも、一旦終わったね」



二人して空を見上げて息を吐いた。

雪が降り出しそうな暗い色をした雲が広がっていた。

あ、と薫が声を上げた。



「そういや宙一は?」

「初日から別の場所に派遣されていて知らん。お前こそ本部で芽に会ってないのか」

「人手不足でまねきの社には戻れてないんだよね。まぁ明日にはどこも一旦引き上げだし、ふたりとも神修で会えるよ」



そうだな、と嬉々は表情を和らげた。


やっと帰れる、神修に。

出てきた時は師走の中旬だったけれど、気がつけば年越しを迎え世間の学校では三学期が始まっている。



「なんか……今ならアースウォーメン全シリーズ観てもいいかも」

「勘弁しろ宙一の前で絶対言うなよ」

「嬉々は相変わらずだね」



顔を見合せた。

ぷっと吹き出して、どちらからともなくくすくすと笑い始めたその時、



「────薫、嬉々ッ! お前らこんな所にいたのかッ!」



こちらへ走ってくる若い神職がいた。三学年上の専科二年の先輩だ。

何度か話したことがある面倒見のいい人だった。



彼は走ってくるなりその手に持っていた二枚の迎門の面を自分と嬉々に勢いよく被せた。


なんですか、と不満の声をあげるまもなく手首を捕まれ引っ張られるようにして走り出す。



「今すぐ二人で神修に戻れ! 車はあと十分後にまびこの社から出る、場所は分かるな!?」



何度か転びそうになりやっと自分の足で走れる具合になった頃に彼はそう叫んだ。