嬉々が耳の穴に指を突っ込んで顔を顰める。


「そんな事より情報が錯綜してる前線で何があった審神者さまが現れたというのは本当か」



嬉々が険しい顔でそう尋ねてきたので、眉根を寄せてひとつ頷く。

審神者が現れたのは本当だった。


禄輪が応戦し空亡の半分ほどの修祓に成功した次の瞬間、空亡は自分の身を自ら八つ裂きにして数え切れないほどの残穢を生み出した。

それが四方へ弾け飛んだ次の瞬間、いつからそこにいたのか、白髪の男をそばにおいた志ようが現れた。

志ようは誰とも言葉を交わさず、何かの祝詞を奏上した。

次の瞬間、空に飛び散った残穢のいくつかがまるで吸い込まれるかのように志ようの体めがけて降り注いだ。


激しい光に誰もが目を閉じ、次に目を開けた時には審神者はその場に倒れ伏せていた。

皆が困惑でその場に固まっていると、白髪の男はその志ようの体を抱き起こし目を瞬かせた次の瞬間には消えていた。



あの瞬間起きたことを全て嬉々に話せば、嬉々は顎に手を当てて黙り込む。



「完全消滅ではなかったということか」

「うん、そう。確かに祓ったけど全部じゃない。空亡の残穢があちこちに散ったんだ」

「審神者が唱えた祝詞は?」

「誰も正確に聞き取れてないって」



嬉々は息を吐いた。