その日の閉店後、幸はコートを羽織りマフラーを巻きながら厨房に顔を出した。


「お父さん。山田のおばあちゃんからさっき電話あって、家の電球変えて欲しいんだって」

「今から行くのか? もうかなり暗いぞ。俺が行こうか」

「明日来てくれって言われたんだけど、お台所の電球らしいから早く換えてあげたくて。お父さん明日の仕込みあるでしょ? 私行くから」


気を付けろよ、という清志の言葉を背中で聞きながら幸は店の外に出た。


外に出た瞬間吐く息が染まる。まだ十二月が始まったばかりだと言うのに、雪はうっすらと道路に積もった。この時期に積もるのは6年ぶりらしい。


滑らないように気をつけながら、地面を踏み締めて歩く。

空気が住んでいるからか夜空が綺麗だ。オリオン座がよく見える。



それにしても、と幸は当たりを見回した。星は見えているが今日は新月らしく月が出ていないせいで往来はひっそりと薄暗い。


なんだかやな感じだなぁ、と身を縮めて足早に通り過ぎた。