志ようから休むよう言われて三日が過ぎ、それは四日目の明け方の事だった。
まだ東の空に日も昇っていないような早朝に目が覚めた。その日は寝つきが悪くて、何度も夜中に目が覚めていた。
まねきの社も校舎もとても静かだった。
厨房で水を飲んで、何となく外に出た。刺すような冷たい風に体を抱きしめる。
吐いた息が白く染った。
何となく見上げた空に、一瞬息が止まった。
北東の空から墨汁をつけた筆を走らせたような細い線が走っていた。
一本ではなく何本も、少なくとも百はある。北東を中心に花火が四方へ弾けるように、シダレヤナギが揺れるようにあちこちへその線を伸ばしている。
全身の肌が粟立つ。遠すぎてよく見えないが、間違いなく何かの残穢だ。
勢いよく駆け出した。
社頭へ続く階段を駆け下り、そのまま本庁を目指す。
異変に気がついた何人かが外に出て来ていた。
「何だあれは?」
「分かりません、前線からの連絡が途絶えており……」
「残穢か? おい! 誰か連絡取れ!」
騒ぎを聞き付けた神職たちが次々と社頭へ出てくる。
皆が空を見上げて息を飲んだ。
その時、
「緊急連絡! 前線より緊急連絡!」
携帯電話を耳に当てながら若い役員がそう叫びながら本庁の官舎から飛び出してきた。
皆の注意がその人物に注がれる。
喧騒が一瞬にしてやんだ。
「────空亡の消滅を確認!」
一瞬の沈黙、そして割れんばかりの歓声が響いた。