苦笑いでその手をよけた。


「もう大丈夫です。寒いので戻ってください」

「折角なんだし見えなくなるまで見送らせてよ」



志ようが前を向いたまま背中をぽんと叩いてきた。

後は階段を降りていくだけなんだけどな、なんて思いながら「じゃあ」と背を向けて歩き出す。

数段降りてから振り返ると、志ようは宣言通りまだそこにいた。手を振ってきたので、小さく振り返す。また背を向けて歩き出した。


もうすぐ完全に日が沈む。鎮守の森から差し込む夕日が熱く眩しい。



「見失わないで……!」



志ようの叫ぶ声だった。そハッとして振り返る。鳥居も志ようの姿もここからはもう見えない。

一段登ろうとして、辺りがふっと暗くなった。日が沈んだ。もうかむくらの社には入っては行けない。



"見失わないで"


志ようは何を思ってそう叫んだんだろうか。