その言葉に甘えても、いいのだろうか。



「────ッ、」


堪えれなくなった涙が睫毛を超えて溢れた。

腕を伸ばした志ようは頭を抱きかかえるように自分を抱きしめた。


梅の香りがする。

かむくらの社の匂い、志ようの匂い、お母さんの匂い。




友人が死んだ。大切な友人だった。

言葉に出したことは無かったけれど、間違いなく宙一は親友だった。



何も出来なかった。その機会すら与えられなかった。守れるだけの力はあったはずなのに、そのために研鑽を重ねてきたはずなのに。


大切な人を失った痛みと、信じてきたものが揺らぐ不安と焦り、自分の不甲斐なさへの怒り。

ずっと胸の中を渦巻いて上手く息ができなかった。

汚泥のようなその感情がどんどん心を侵食していき、毎日毎日、少しづつ深い所へ沈んでいっているような感覚だった。



「何が、誰が、俺が、正しいのか間違っているのか、分からないんです……」



志ようの手が背を撫でる。その手は唯一、味方で正しい手なのだと分かる。

それが今の自分にとってどれほど救いなのか計り知れない。