細い指が自分の頬をするりと撫でた。



「酷い顔。数日前から夜通しで広辞苑でも読んだみたいな隈が出来てる」

「広辞苑って……」



苦笑いを浮かべてそっとその手を戻させた。



「お昼食べれそう?」



そう問われて腹に手を当てる。もう随分と前から腹は減ってないような気がする。

食べる気が起きなかった。食べたいとも思わなかった。食べなかったからといってそれを指摘する人もいない。


小さく首を振ると志ようは「そっか」と目を伏せた。



志ようには友人が死んだことは伝えていない。以前の白虎の言葉を思い出したからだ。「一番心を痛めているのは君なんだからな」。

志ようは自分と似たような状況に立たされている。仲間を助けられるだけの力はあるのに、審神者という立場がそれを阻んでいる

自分がこの気持ちを吐露するのは、同時に志ようを苦しめることになる。



「ねぇ芽くん。もしかして、白虎が何か言った?」



志ようが大きな瞳で真っ直ぐ己を見つめた。嘘を許さない力強い目に思わず視線を逸らす。

志ようは「やっぱり……」と呆れたように息を吐いた。