分からない、何が正解で何が間違いなのか。
宙一は夜、たまたま出かけていたカップルが妖に襲われそうになった所を助けに入って死んだらしい。
人を助けて死んだ、それはきっと美談として語られるに違いない。誰もが宙一の事を英雄だといって褒め称えることだろう。
ならば宙一の死は、正しかったのだろうか。
人が一人死んだ。本来なら今頃勉強して遊んで、馬鹿なことをして叱られて、それでも楽しそうに笑っているはずの人間の人生が途絶えた。死ぬべきじゃない人が死んだ、それは正しい死なんかじゃない。間違った死なのではないだろうか。
そして間違っているのは夜中に外を出歩いていたそのカップルで、前途ある若者を戦場へ送り出した本庁で、ただそれを見送るだけで何もしていない自分ではないのだろうか。
でも何もしていない自分がああだこうだと意見を述べることすら、もはや間違いなんじゃないだろうか。
分からない。頭が回らない。
揺らぐ。迷いそうだ。
「────むくん、芽くん」
ハッと我に返った。
目の前に志ようの顔がある。
「大丈夫? もう奏上終わったよ」
「あ……すみません」
頭の奥がもやがかかったようにぼんやりしている。
辺りを見回してかむくらの社の本殿にいたことを思い出した。