やがて枯葉は全て落ち、代わりに細かい雪が降る季節になった。
「おい幸、あいつはどうした」
店を開けて少しした頃に厨房から清志が顔を出した。帳簿をつけていた幸は「知らない」と素っ気なく答える。
清志はもうここひと月ほど、幸に「あいつはどうした」と毎朝聞いてくる。あいつとはもちろん隆永の事だ。
ひと月ほど前に「ちょっと仕事で忙しくなる」という話を聞いてから、もう一度も店へ顔を出していない。
隆永に出会う前の日常に戻ったはずなのに、店の中はやけに静かで広くなったように感じた。
仕事が忙しいって、こんなに何ヶ月もかかるものなの? どうせそんな事言って、どこかで遊んでるに違いない。だってお正月や七五三ならまだしも、この時期に神社がそんなに忙しいなんて聞いたことがない。
電卓のイコールを強めに叩いて鼻を鳴らす。
別に待っている訳では無いけれど、黙って来なくなるなんて良くしてあげていたお父さんに失礼だ。
「あいつに連絡はしないのか」
「連絡先知らないし。それに知っててもしません!」
幸に睨まれた清志はいそいそと厨房の中へ逃げていく。
テーブルの上に頬杖をついて唇を尖らせた。