なりふり構わず乗り込んだ日本神社本庁の庁舎は、空亡が現れた頃から24時間体制になって21時を過ぎた時間でも沢山の神職が働いていた。

実家が由緒正しい社でその長男、成績優秀で類まれなる言祝ぎの持ち主、由緒と歴史が大好きな老人達が集まるそこで、自分の経歴が有効だったのか片手であしらわれることも無く直ぐに上層部へ通された。


薫の事を避けていた実家の神職達とよく似た古臭い顔の役員たちが、こんな時にもかかわらず笑顔で自分を招き入れる。



「何故ですか」



表情を変えずに淡々とただ一言そう尋ねれば、全て言わずとも伝わったらしく口々に御託を並べ始めた。

芽くんにはまねきの社の守りを固めてもらいたい、戦線が動き始めたら審神者さまの傍に付き添ってもらいたい、将来のために役員の仕事を見ておきなさい。


唇の隅に泡をつけて口早に語りかけるそれらはどれも反吐が出そうなほど綺麗事で塗り固められた身勝手だった。

自分以外にも神修に残されている先輩や後輩がいることをそこで知った。みんな優秀な学生で、3年の先輩には自分と同じ正階を取っている人もいた。

間違いなくそこらの神職よりも強い人たちばかりだ。


すぐに分かった。

ああそうか。

仲間や友人が最前線で戦う中でこいつらは、ぬくぬくと結界に守られるこいつらは、我が身可愛さに保身に走ったのか。



どろり、胸の中の汚泥が広がる。