「────今日の鶏の照り焼き? 俺の分あるかな」
いつかと同じように、まるで昨日も会っていたかのような口振りで突然現れた薫に、広間で夕飯を食べていた自分たちはカランと箸を落とした。
冬休みも目前に迫り師走に入った一周目の事だった。
「く、薫……?」
「うん、そうだけど」
「幽霊じゃなく……?」
「あはは、お前相変わらず失礼極まりない奴だね」
「その言い草は薫だ〜ッ!」
勢いよく立ち上がった宙一が薫に飛び付いた。
支えきれずにひっくり返った薫は畳に転がり呻き声を上げる。
「気持ち悪いな、抱きつくなってば」
「俺たちがどれだけ心配したか分かってんのかよ〜!」
ぐりぐりと頭を擦り付ける宙一に薫は顔を引き攣らせた。
しかしいつものように無理やり引き剥がすことはせずに黙ってされるがままになる。
自分が耐えきれなくなって宙一の首根っこを掴むと無理やり引き剥がした。ぽいと宙一を後ろに放り投げて薫に詰め寄る。
「芽?」
不思議そうに名前を呼んだ薫。
その呼び掛けには答えず無言で薫の体をぺたぺたとまさぐる。
「は!? え、ちょ芽!?」
「芽バカヤロー! こんな公共の場でそんなふしだらな事! キャッ、エッチ〜!」
騒ぎ立てる二人を睨みで一蹴して、気が済むまで確認する。
最後に頬に触れて、何処にも怪我をしていないことが分かり息を吐いた。