あまりにも真剣な目に言葉が出てこない。
唇を噛み締める。
「斎賀先生、結構好きだったんだ。いちいち煩いし拳骨は痛いし、ゴリラみたいな顔してるけど。だからさ、斎賀先生のためにも、お前らが同じ道を辿らないようにするためにも、行くって決めた。"友達"だから」
薫が胸ぐらを掴む自分の腕を掴んだ。「相談しなくてごめんね」と昔みたいに困った顔をして笑う。
胸ぐらを揺すった。何度も揺すった、その度に薫が「うん」と相槌を打つ。
「友達なら、事後報告じゃなくて事前に相談するもんだろ馬鹿」
宙一が目元を真っ赤にしてそう言った。
「そうなの? こっちは友達初心者なもんでさ」なんてしれっと答えて、顔を梅干しみたいにぐしゃぐしゃにして堪える宙一を見て笑った。
「いつ出るんだ」
嬉々が静かにそう尋ねる。
「明日の昼には発つよ」
「そうかせいぜい下痢にならないといいな」
「ちょっと、俺のこと呪う気満々じゃん。長旅になるから勘弁してよ」
くすくすと笑った薫に、嬉々は俯いた。
指が白くなる程握り締められた拳に、薫も気付いていた。



