「な、な……っ!」

「幸さん大丈夫!? どこか打ってない!?」


いつも人のいい笑みを浮かべ、自分がどんな言葉や態度を取ろうとも飄々としている隆永が激しく狼狽えていた。

ゆっくりと幸を立たせるとまるで壊れ物にでも触れるように恐る恐る手に触れてくる。


「痛いところは!?」

「あ、えっと……大丈、夫」


己の体を見下ろして異常がない事をつたえると、隆永は肺の空気を全て吐き出す勢いでため息をついた。


「良かった。幸さん、あとは俺がやるよ。そもそも最初から俺がやれば良かったよね、ごめん」


幸の手から電球を奪った隆永は倒れた脚立を起こし始めた。



隆永さんが謝る必要はないのに。そもそも隆永さんは自分がやると最初に申し出てくれた。それなのに私が変な意地を張って自分でやるって言ったから、こんなことになったんだ。



「さっちゃん、大丈夫?」

「……あ。うん、大丈夫。ビックリさせちゃってごめんね〜!」

「女手じゃ難しいことは隆ちゃんに頼りなよ」


微妙な空気が流れて、それを感じ取った常連客達は「そろそろ行くね」と手を振って店を出て行った。

脚立に登る隆永の背中を見あげた。



「これでいいかな? 幸さん、電気つけてみて」

「……うん」


言われた通りに電源を付けると、店内が一気に明るくなる。


「よし、上出来」


満足気に笑った隆永は軽やかに脚立から降りた。