言祝ぎの子 参 ー国立神役修詞高等学校ー



教室は水を打ったような静けさに包まれた。

誰も言葉が出てこなかった。出てこなかったと言うよりかは、その言葉を理解するのにとても長い時間を要した。



「あ……あー、えっと? あはは、俺耳おかしくなった?」



一番に沈黙を破ったのは宙一だった。

いつものように軽薄な声でそう言う。けれど表情は分かりやすく強ばっていた。



「午後に空亡の修祓に向かわれて、現場で深手を負ったらしい。治療も間に合わず、その場で息を引き取ったと聞いている」

「ま、待ってよ禄輪先生。待って、ちょっと待って」

「明日明後日で神葬祭(そうぎ)があるから、お前達も出席するように。今後このクラスの担任業務を引き継ぐ神職はまだ決まってないが、暫くは私が……」

「待ってってばッ!」



バン、と机を叩いた宙一が勢いよく立ち上がった。

宙一が怒りに任せて声を荒らげたところを初めて見た。



「冗談キツイって。斎賀っちょが死んだ? だって今朝、ほんの数時間前だよ、ホームルームでいつも通り俺らに説教して、キョーレツな拳骨落としてさ。昼飯食う前だって、俺らが廊下走ってたら人形(ひとがた)投げてきて、それが足に絡まってさ、」



それで、と言葉を詰まらせた宙一が目を見開いた。

禄輪が目も合わせずに力なく首を振ったからだった。



「何で、え? だって斎賀っちょ今月誕生日で、今年はどうやって祝おうかってほんとに今、俺たち────」


宙一の声が分かりやすく震えた。

振り向いて宙一を見上げれば、目尻から雫がこぼれる寸前だった。