「幸さん、結婚してください」
「い、や、で、す」
「でも実家の方には婚約者ができたって言っちゃったんだよなぁ」
「はァ!? 何勝手に話進めてるんですか!?」
幸と出会ってからひと月ほどの月日が経った。
もはや恒例行事になった隆永の公開プロポーズを常連客たちは「またやってるよ」と温かい目で見守る。
「さっちゃん、そろそろ受けてやりなよ。親父さんも許してるんでしょ? 後はさっちゃんだけだよ」
「そうそう。それになかなかいい男じゃないか。こんな一途な男、滅多にいないよ」
常連客たちも最近では隆永の味方をする人が増えた。客たちの援護射撃に、脚立に乗って電球を換えていた幸は「そこ、好き勝手いわない!」と目を釣り上げる。
「もう、本当に! 皆してそんな事言って。大体私は隆永さんと結婚なんて────ッ!」
隆永を睨もうとして振り向いた幸が脚立の上でバランスを崩した。きゃあっ、と客たちの悲鳴があがる。
ガシャン!と激しい音が店内に響き渡る。
痛みを覚悟してきつく目を閉じたはずが、一向に衝撃は来ず温かい何かに包み込まれる感覚に幸は恐る恐る目を開けた。
隆永の焦った顔が真上にある。
「きゃっ、お姫様抱っこ! 隆ちゃん、素敵!」
そんな常連客の冷やかし交じりの歓声に自分の状況をやっと把握する。