数十分後、髪は肩上の長さで前髪は眉にかかる程度の長さで切り揃えられた。

思えば嬉々の顔をこうしてちゃんと見るのは初めてだ。


青白い肌に涼し気な目は長いまつ毛で縁取られ、不健康そうな肌色とは違って薄桃色の健康的な薄い唇に少し驚く。


「出来た! トイレで見てこいよ嬉々!」

「別にいい髪の長さが変わろうと中身は同じなんだぞ」

「いやまぁ、そうだけどさー……」



手櫛で髪の長さを確かめた嬉々。何度かそれを繰り返して、少しだけ口角を上げる。

目を見開いた。あの嬉々が笑っている。

宙一はそれに気付いていないのか「だいたい嬉々は……」なんて愚痴を零している。



「ったく、嬉々も薫も、このクラスは自分勝手なやつばっかだよ! 少しは芽を見習えっての!」



ふん、と鼻を鳴らして腕を組んだ宙一に顔を顰めた。


「やめてよね、一番自分勝手なのは芽だっての」

「はぁ〜? どう考えてもキングオブ自分勝手は薫だろ!」

「じゃあ宙一はキングオブウザイ煩いはた迷惑」

「薫の意見に全面的に同意する」

「よしお前ら全員モヒカンにしてやる」



ハサミを持ってジリジリと歩み寄る宙一に、嬉々は本を読みながら立ち上がった。そのままパタパタと小走りで教室を出ていく。嬉々に続いて自分も教室を飛び出した。

「待てやこの野郎! 一生モヒカンの呪いをかけてやる!」と宙一が追いかけてくる。