髪の間からギロリと睨んだ嬉々を無視して、宙一は楽しそうに筆箱からハサミを取りだした。
「嬉々に殺されるよ宙一」
「ダイジョーブだって! 俺こう見えて弟と妹の髪ずっと切ってたから、割と得意なんだよ!」
「そういや五人兄弟だっけ?」
「そそ! ビンボー六人家族!」
自分や嬉々とは違って社や神職とは程遠い一般家庭に生まれた宙一は、地元の小学校を卒業する直前に本庁から編入許可の知らせが届いたらしい。
片親で下に四人も弟妹がおり、家計のことを考えて学費もかからず将来安泰な神修へ入学したのだと前に聞かされた。
激しい攻防戦のあと、面倒くさくなったのか「好きにしろ」と抵抗をやめた嬉々。
任せとけって、と自信満々に胸を叩いた宙一は迷うことなく嬉々の髪にハサミを入れた。
嬉々は再び本に齧り付く。
「嬉々、今は何の呪いの研究してんの?」
「蠱毒」
「へぇ〜人って寂しいと呪われるんだな」
それは孤独、というツッコミは面倒なので言わなかった。
「おい嬉々、お前この間燃えた所もそのままじゃん。ここに合わせるなら、中学ん時と同じくらい短くなるぞ?」
「何でもいい勝手にしろ」
「勝手にしろって……女の子なんだからもうちょっと気にしろよ」
パラパラと足元に落ちていく嬉々の髪を頬杖を着きながらぼんやりと見守る。
自信満々に言うだけあって、宙一の手つきは迷いがなくてなかなかのものだ。



