「────おー、おかえり薫」
四限目が終わる少し前、教室に戻ってくると授業も既に終わったらしく宙一と嬉々が帰ってきていた。
祝詞の実技演習の授業で参加出来ない自分は、自習を言いつけられていたけれど教室を抜け出して庭園の太鼓橋の影で先程までサボっていた。
「授業もう終わったの?」
「おー。んで午後から休講、いつものやつ」
自分たちが二年に上がってから授業の休講や振替が頻発している。教員の神職たちが、本庁からの任務で急遽駆り出されることが増えたからだ。
「空亡が隣の県に出て、本庁から近隣の神職に招集命令がかかったんだってさ」
数年前、自分が神修へ来る少し前に突如として現れた空亡と呼ばれる妖は、人も妖もありとあらゆるものを駆逐する災厄で、最凶の妖とされている。
出現と同時にひとつの山を焼け野原にした空亡は、各地を点々として先々の妖や神職に危害を加えているらしい。
「前からちょくちょく空亡絡みで先生たちが任務に行ってたのは知ってるけど、今回はまねきの社の神職総出なんだって。空亡ってそんなに強いのか?」
「総出ってことはそういうことでしょ」
「ふーん」
任務を受けられるのは高等部を卒業した神修の生徒か18歳以上の神職と定められており、現場に出られない自分たちは正直そんなに強い妖が現れたという実感がなかった。