2010年、夏。
「────セーフ! セーフだよな!?」
始業の鐘が鳴り響き、その余韻が消えかかる直前に文字のごとく滑り込んできた宙一は、バッと顔を上げて両手を広げてそう主張した。
「アウトだ馬鹿者、廊下に立ってろ」
今年で付き合いも三年目になる担任の門澤斎賀《さいが》が目もくれず淡々とそう言い捨てる。
「そんな〜! 斎賀っちょ〜!」
「出席にしてもらってるだけでもありがたいと思え。じゃホームルーム始めるぞ」
教室から締め出さた宙一は窓にへばりついて情けない声を上げる。
「ほんと懲りないんだから」
「阿呆には何を言っても意味が無い時間の無駄だ」
頬杖をついた芽が呆れ顔でそういえば、本に視線を落としたままの嬉々がふんと鼻を鳴らした。
「ねぇ、薫?」
芽が振り向いてこちらを見た。くつくつと喉の奥で笑って頷く。
「ほんと馬鹿」
二人が身につけているのは松葉色の制服、窓の外の宙一も同じ松葉色の制服、そして自分も。
中等部を卒業した自分たちは高等部に進学し、今年の春で二年になった。
ホームルームが終わって斎賀先生からお決まりの拳骨を食らった宙一はしゅんと肩を落として席に座った。