「よくやったね宙一、お前が殴られた姿を見て薫が笑ってくれたよ」

「薫が笑った〜俺のおかげで笑った〜」

「そうそう。だからもう一発もらっとく?」

「あははっその前にションベン行ってくらぁ」



右に左にと壁に頭をぶつけながら部屋から出ていった宙一。ドアが閉まってからもガンガンとぶつかる音が聞こえた。

芽ともう一度目が合った。二人同時にぷっと吹き出す。



「大丈夫なの、あいつ」



堪えられなくてくすくすと笑いながら尋ねる。



「大丈夫大丈夫、宙一の帰巣本能は犬より優秀だから」

「帰ってこなくていいどっかで勝手に寝落ちてろ」

「でも嬉々、それ見つかったら怒られるの俺たちだよ」



げ、と顔を顰める嬉々。それすら面白くて笑いが止まらない。

ほら薫食べよ、と芽に促されてテーブルの上のお菓子に手を伸ばす。

嬉々が撮ったばかりの宙一の写真を見せてきて、芽はまたひっくり返る勢いで笑い出した。


馬鹿だね、なんて話していると廊下をドタバタと走る足音が聞こえてきて「ほら、やっぱり帰ってきたでしょ?」と芽が得意げに笑う。

芽がすっと立ち上がった。そのまま扉の前に立って、ドアノブに手をかける。宙一のために開けてあげるんだろうか、なんて考えていると、反対の手を伸ばした芽は扉のすぐ横にある部屋の電気をパチンと押した。