「宮司がその"婚約者"を早く連れてこいと毎日毎日仰ってますが」
「そのうちね」
「勘弁してくださいよ! 隆永さんと宮司に板挟みにされる僕の気持ち、考えたことあります!?」
「ご苦労さん」
はああ、とこれみよがしに大きなため息をついた真言を気にすることも無く、「美味いなぁ」とおはぎを食べ進める。
「やっと見つけたご婚約者さまに浮かれるのは良いのですが、暫くはこちらに集中して頂くことになりますよ」
苦い顔を浮かべた真言が、新たに持ってきた書類を隆永の前に滑らした。
報告書、とあるその紙を上からざっと目を通す。
「土蜘蛛か」
「ええ。現地の社の神職が対応したそうなのですが、修祓に失敗したようで」
「被害は?」
「対応に当たった社の神職五名が重軽傷、一般人への被害が十二件です」
多いな、と険しい顔を浮かべる。
土蜘蛛は一メートル以上の巨大な体を持つ蜘蛛の姿をした妖で、その力は強大で無差別に人を襲い食うとされている。
その多くは山の中に生息し、神役諸法度では見つけ次第修祓を推奨されている。
「奥多摩か……」
「何か気になることでも?」
「いや」
黙りこくる隆永に何かを察したらしく、真言は静かに頭を下げて部屋を後にした。