宙一はすっかり疲れきって、電車の席に座った途端自分の肩を枕にして大きないびきをかいて眠りこけた。
鬱陶しくて顔を鷲掴みにして押しやるも、起き上がりこぼしのように戻ってくるので渋々諦める。
そんな様子に芽は可笑しそうにくすくすと笑った。
「疲れてるんだよ。朝から夕方まで働いて、最後に祝詞奏上までしたんだし。肩貸してあげて」
芽はそう言うと、船を漕ぐ嬉々にそっと肩を貸す。
目を伏せてつま先を見つめる。暖房が強いのか顔中がじんじんして耳が熱い。
「薫、あんな祝詞知ってたんだね。高等部で習うんだよ、美保貴大祓詞《みほぎおおはらえのことば》って。禄輪おじさんから習ったの?」
「……まぁ」
「そっか、凄いね」
沈黙が流れる。暖房の音がごうごうとうるさい。
「……なんで、あそこにいたの」
呟くように発した言葉は芽にちゃんと届いていたらしい。
自分から話しかけることは滅多になくて、芽もそれが意外だったのか目を瞬かせた。
「薫があまりにも遅いから、皆で様子を見に戻ったんだよ。そしたらあんな事になってたからびっくりしたよ」
「遅いって……先に帰ってなかったの」
「クラスメイトなんだから、待つのが普通でしょ?」
芽が小さく笑う。