御國(みくに)八廣殿(やひろどの)千木(ちぎ)は 高天原(たかまのはら)高知(たかし)底津磐根(そこついわね)宮柱(みやばしら)太敷(ふとし)き立てて 青雲(あおぐも)棚引(たなび)(きわ)み 塩沫(しおなわ)の至り止まる限り (ひろ)ごり(さか)へしめ給ふ事を (とうと)び奉り(かたじけな)み奉りて (たの)しく面白(おもしろ)の心持ちて(おの)も各もその命命(みことみこと)(つか)へしめ給ふと 言祝(ことほ)真祝(まほ)ぎに称詞(たたえごと)()(まつ)らくと(もう)す────」



荒ぶる心を沈めるような春の木漏れ日に似た心地よい風がぶわりと辺り一面を吹き抜ける。凪いだ水面に水滴が落ちるように、自分を中心に波紋が広がる。

はっと視線を向けると、男の喉元に牙を立てていた狛犬が顎を離した。


美保貴大祓詞《みほぎおおはらえのことば》、荒ぶる魂や精神を鎮める祝詞だと教わった。けれどこれだけではまだ足りない。

次の祝詞に、と息を吸ったその時、喉の奥に鉄のような味が広がって鈍い痛みが走った。

咄嗟に咳込めば痛みは鋭くなる。



まただ、またこうなった。何も変わってない、前と同じだ。

やっぱり僕は────。



くそ、と喉を押えて強く目を瞑ったその時。



「ナイス薫! すげぇなお前!」

「よくやったね薫」

「やるなら最後までやれ阿呆」



ぱん、と強く背中が叩かれた。

弾けるように顔をあげれば、自分の横に並ぶクラスメイトたちの横顔が見える。

目を見開いた。



「後は任せろ!」



宙一のその声に合わせて、皆が胸の前で柏手を打った。