「隆永権宮司、真言です」

「どうぞー」


その夜、社へ帰宅してすぐに巫女頭に捕まり、社務所の会議室に溜まった書類仕事と共に放り込まれた。

反論する余地もなく睨みつけられ、更には外から鍵をかけられた。

鍵をかけられてはどうにもならず、仕方なく書類に目を通していると湯呑みと茶請けを持った真言が入ってきた。


扇屋真言はわくたかむの社の禰宜頭を務める若者だ。隆永よりも二つほど年下で、彼の曽祖父の代からこの社で奉仕している。

彼自身、学生時代は非常に優秀な成績を収めており、優秀な生徒だけに声がかかる日本神社本庁への勧誘を蹴ってまでこの社で奉仕をしている。


幼少期から祖父や父に連れられて社へ何度も来ており、隆永の遊び相手になっていた。

わくたかむの社へ奉仕が決まると、すぐに禰宜の役職が与えられ隆永のお目付け役を担うようになった。



「本当に食べるんですか? これ」


テーブルに湯のみを置きながら、真言は怪訝な声でそう尋ねる。

湯のみのそばに置かれた小皿にはおはぎがちょこんとのっていた。


「ん? ああ、俺の婚約者のお父上が作ったものだからね。それにこの俺が食べれるくらい、甘ったるくなくて美味いんだよ」

「はぁ」


一つ伸びをすると小皿のおはぎを摘む。

口当たりのいい食感に程よい甘さ。甘いものが得意では無い隆永が、おはぎを食べて初めて「美味い」と感動したのだ。