言祝ぎの子 参 ー国立神役修詞高等学校ー



息を吸う。胸の前で拍手を打ち鳴らした。

自分に言祝ぎはない、その代わりにこの声で言祝ぎを。高く、優しく、柔らかな声で、言祝ぎを────紡ぐ。



「掻(か)き見る空の極(きわ)み無く 打ち見る地(つち)の行合(ゆきあい)に生きとし 生ける物有りとし有る物皆を 心(こころ)楽(たの)しの随(まま)に 成り出(い)でしめ給(たま)ひ 恵(めぐ)しの御心より 助(たす)け育(おう)し給(たま)ふ 神の御名(みな)を 天照國照統大神(あまてらくくにてらすすめおおかみ)と称(たた)へ奉(たま)りて……」



自分には一生言祝ぎが宿らないのだと物心ついた時から繰り返し聞かされてきた。

どれだけ辛く厳しい稽古を繰り返しても、この口が言祝ぎを紡ぐことは難しいのだと。


けれど止めなかった。

血を吐くほど祝詞を奏上した。失敗して祝詞が暴発して、生傷が耐えなかった。


それでも止めなかった。



「言祝(ことほ)ぎ真祝(まほ)ぎに祝(ほ)ぎ奉(まつ)らくは 大神(おおかみ)は天地(あめつち)を初めて 萬(よろづ)の物をも生(う)み成(な)し給(たま)ひけるが中に 此(こ)の荒金(あらがね)の土に生(お)ふる天益人等(あめのますひと)の 清き明き心を珍(うづ)の盛(さか)りに 成し幸(さきは)へしめ給(たま)ひて 世には荒ぶる者も無く 仕(つか)へ奉(まつ)らむ人も無く 最(いと)も楽(たの)しく尊(とうと)けく 朝夕(あしたのゆうべ)に神祭(かみまつり)仕(つか)へしめ給ひ 日に異(け)に楽しく 忝(かたじけな)き心持ちて 各(おの)も各も命(みこと)の随(まま)に勤(いそ)しましめ給ひて 八千萬(やちよろず)百千萬(ももちよろず)の末掛(すえか)けて 守り給ひ恵み給はむ 理(ことわり)の隠(かく)ろひて八重雲(やえぐも)の穢(けがれ)湧(わ)き出でて 天津罪(あまつつみ)國津罪(くにつつみ)許許太久(ここだく)の罪(つみ)出(い)でむを 天津奇(あまつくす)し誓言(うけいごと)立(た)てて 悪祓善祓(あしはらえよしはらえ)に祓(はらえ)の行仕(わざつか)へ奉(まつ)り 大祓(おおはらえ)の遠祓(とおはらえ)に 祓(はら)ひ清めて仕(つか)へ奉(まつ)らくを 畏(かしこ)き統大神(すめおおかみ)は 天八重雲(あまのやえぐも)を厳(いつ)の千別(ちわ)きに 千別(ちわ)きて聞(きこ)し食(め)さむ 高山(たかやま)の伊褒理(いぼり)低山(ひきやま)の伊褒理(いぼり)を 掻(か)き別(わ)けて聞(きこ)し食(め)さむ 斯(か)く聞(きこ)し食(め)しては……」



自分の力を誰よりも信じてくれた人がいた。

だから自分も、"いつかきっと誰かを助けることが出来る"その人のその言葉を信じたかった。



「天下四方(あめのしたよも)の9國《くに》には 罪と言ふ罪は在らじと 朝(あした)の御霧(みぎり) 夕(ゆう)の御霧(みぎり)を 朝風(あさかぜ)夕風(ゆうかぜ)の吹き払う事の如(ごと)く 彼方(をちかた)の繁木(しげき)が 本(もと)を焼鎌(やきがま)の 利鎌(とがま)以(もち)て打ち掃(はら)ふ事の如く 天(あま)の益人等(ますひとら)が 穢(けがれ)と言ふ 穢罪(けがれつみ)と言ふ 罪をば祓ひ清め給ひて 畏(かしこ)き統大神(すめおおかみ)に 纏(まつ)ろひ奉(まつ)り神命(みこと)を 尊(とうと)び奉(まつ)り互(かたみ)に懐かしみ親しみ合ひて 統大神(すめおおかみ)の神図(かむはか)りの随(まま)に」



一度は傷付けてしまったこの言葉で、今度は誰かを助けたかった。