息を吸う。胸の前で拍手を打ち鳴らした。

自分に言祝ぎはない、その代わりにこの声で言祝ぎを。高く、優しく、柔らかな声で、言祝ぎを────紡ぐ。



()き見る空の(きわ)み無く 打ち見る(つち)行合(ゆきあい)に生きとし 生ける物有りとし有る物皆を (こころ)(たの)しの(まま)に 成り()でしめ(たま)ひ (めぐ)しの御心より (たす)(おう)(たま)ふ 神の御名(みな)を 天照國照統大神(あまてらくくにてらすすめおおかみ)(たた)(たま)りて……」



自分には一生言祝ぎが宿らないのだと物心ついた時から繰り返し聞かされてきた。

どれだけ辛く厳しい稽古を繰り返しても、この口が言祝ぎを紡ぐことは難しいのだと。


けれど止めなかった。

血を吐くほど祝詞を奏上した。失敗して祝詞が暴発して、生傷が耐えなかった。


それでも止めなかった。



言祝(ことほ)真祝(まほ)ぎに()(まつ)らくは 大神(おおかみ)天地(あめつち)を初めて (よろづ)の物をも()()(たま)ひけるが中に ()荒金(あらがね)の土に()ふる天益人等(あめのますひと)の 清き明き心を(うづ)(さか)りに 成し(さきは)へしめ(たま)ひて 世には荒ぶる者も無く (つか)(まつ)らむ人も無く (いと)(たの)しく(とうと)けく 朝夕(あしたのゆうべ)神祭(かみまつり)(つか)へしめ給ひ 日に()に楽しく (かたじけな)き心持ちて (おの)も各も(みこと)(まま)(いそ)しましめ給ひて 八千萬(やちよろず)百千萬(ももちよろず)末掛(すえか)けて 守り給ひ恵み給はむ (ことわり)(かく)ろひて八重雲(やえぐも)(けがれ)()き出でて 天津罪(あまつつみ)國津罪(くにつつみ)許許太久(ここだく)(つみ)()でむを 天津奇(あまつくす)誓言(うけいごと)()てて 悪祓善祓(あしはらえよしはらえ)(はらえ)行仕(わざつか)(まつ)り 大祓(おおはらえ)遠祓(とおはらえ)に (はら)ひ清めて(つか)(まつ)らくを (かしこ)統大神(すめおおかみ)は 天八重雲(あまのやえぐも)(いつ)千別(ちわ)きに 千別(ちわ)きて(きこ)()さむ 高山(たかやま)伊褒理(いぼり)低山(ひきやま)伊褒理(いぼり)を ()()けて(きこ)()さむ ()(きこ)()しては……」



自分の力を誰よりも信じてくれた人がいた。

だから自分も、"いつかきっと誰かを助けることが出来る"その人のその言葉を信じたかった。



天下四方(あめのしたよも)の9國《くに》には 罪と言ふ罪は在らじと (あした)御霧(みぎり) (ゆう)御霧(みぎり)を 朝風(あさかぜ)夕風(ゆうかぜ)の吹き払う事の(ごと)く 彼方(をちかた)繁木(しげき)が (もと)焼鎌(やきがま)の 利鎌(とがま)(もち)て打ち(はら)ふ事の如く (あま)益人等(ますひとら)が (けがれ)と言ふ 穢罪(けがれつみ)と言ふ 罪をば祓ひ清め給ひて (かしこ)統大神(すめおおかみ)に (まつ)ろひ(まつ)神命(みこと)を (とうと)(まつ)(かたみ)に懐かしみ親しみ合ひて 統大神(すめおおかみ)神図(かむはか)りの(まま)に」



一度は傷付けてしまったこの言葉で、今度は誰かを助けたかった。