誰か神職を、そう思って一歩踏み出したその時、足音に気づいた三人が弾けるようにこちらを見た。
「助けてッ!」
縋るような目と目が合う。
ばくん、と心臓が高鳴った。
"薫のその力も、いつかきっと誰かを助けることが出来るから"
なぜこういう時に限って、奥底へ封じたはずの記憶がふわりと蘇るのだろうか。
自分を包み込む優しい温もりと桜の匂いが、鈴の音色のような声とともに脳裏をよぎる。
それは自分の力が嫌になって泣きじゃくっていた幼い頃の記憶だ。
禄輪以外の人間の前で祝詞を奏上したのは、九歳のあの夏が最後だった。
忘れたいのにずっと忘れられない、初めて自分の言葉で人を傷付けたあの日のこと。
「お願い、助けて……ッ!」
「助けて!」
これまでずっと人前で奏上しなかったのは、上手くできないからじゃない。ただ、怖かったからだ。
もう自分の言葉で、誰かを傷付けたくなかったからだ。
本当に僕に、出来るのだろうか。
誰かを傷付けることなく、この言葉で守ることが出来るだろうか。
呪ではなく言祝ぎを、紡ぐことが出来るんだろうか。